プレストコーポレーションの提供によるプロライダー難波恭司氏による2008海外モデルの本音のインプレッションをご紹介します。試乗会の開催まで参考になればと思います。
’08 YZF-R6
☆よりスタイリッシュに
‘06 に登場した先代YZF-R6(2C0)。スーパースポーツでの最高スペックだけで
なく、先進のデザインで大きなインパクトを放ち、他メーカーの度肝を抜いた
のが記憶に新しいのだが、今回その基本コンセプトを継承しつつ、更なるポテ
ンシャルアップと、デザインの先駆者たる貫禄でよりスタイリッシュになって
登場してきた。精悍なイメージは各部の作りこみやシェイプされた曲線、そし
て研ぎ澄まされたエッジの調和が強調されていることから美しくも感じる。
☆あゃゃ? がっ、しかし!
普段はカタログスペックを気にしないのだが・・・最高出力を見ると下がっている?? スーパースポーツモデルなのに?? 多くのユーザーはこの数値に疑問を持つだろう。私も始めはそう感じたのだが、’07 モデルとの差は僅か2PS 程度。
この程度ならば空気密度の関係で変化する「最大パワー = 冬 > 夏」の差以下だ。要するにプロライダーでも容易に体感できるレベルじゃないのだ。それよりも、’07 YZF-R1 で採用されていたYCC-I(ヤマハ チップドコントロール インテーク)がこのR6 にも取り入れられた事のほうが大きなニュース。もともと少ない排気量でパワーを絞り出すのは困難を極め、必然的にエンジン回転数を高回転域まで回さざるを得ない。すると現在の技術力を持ってしても低回転〜中速回転域が頼りなくなってしまう傾向にある。サーキットのような使い方だけであればそれも許せるのだが、こいつの場合はあくまでもストリートバイクであることが基本。そしてもちろんユーザーの多くはストリートでの使用であることを踏まえると、常用回転域(ここでは5000rpm 以下)でのエンジントルク、そしてスロットルに対する反応を充実させることを「ないがしろ」には出来ないと考える。
’07 YZF-R1 でも感じたが、中速域の充実はスロットルに対する反応が良くなることを意味し、バイクに乗る楽しさが増えることに繋がる。そんな期待を持ってインプレッションすることにしたが、実は私にとって歴代YZF-R6 の試乗はサーキットだけだった。これもエンジン特性に関しての評価は物足りないはずなので、今回は主にストリート。しかも「スーパースポーツはそんな使い方はしね〜だろ?」と思われるようなシチュエーションを徹底的? (意地悪気味か?)にテストして見た。
☆いけるじゃん♪
まずはお使い・・・近くの郵便局へ。このとき思ったのは、さすが郵便局。ありがたいことに駐輪場が玄関前にあるんだね! 毎日配達ご苦労さまです。いや、やはり「ドア to ドア」の利便性はバイクならでは。都心でも2輪の利便性を理解して頂き、一刻も早く駐輪場を各所に配置して欲しいもの。もちろん利用する側のマナーも大切だけどね。あぁ! インプレッションしなきゃ・・・あえて街中をウロウロして見たのだが、交差点を左折、信号で止まり、青になって直進、右折レーンにて停止し、矢印が出て右折。普通じゃない? 予想に反して普通に乗れるだけじゃなく、スロットルを開けて加速する際、ヘッドバイプを貫通している吸気ダクトから吸気音が共鳴し、なんともレーシーなサウンドを奏でてくれるじゃない。そしてやや狭い路地を走ると、独特なエキゾーストまで反響してくるので、右手のアクセルを通して「こいつ」と語りながら走っている気分になった。乗り味もハードなサスペンションながら不思議と不快感までいかない。
普段はR1 ばかり乗っている私ながら、今回改めてR6 をストリートで乗ってみた比較だと、交差点の倒しこみの軽さに通じる全域で軽快感のあるハンドリングは「応答性 = R6 > R1」でR6 に軍配が上がる。僅かな車重の差なのだが、いざ動き始めると全てが慣性力となって増大してしまい、結果として重量以上の差として乗り味に影響してくる。軽さは最大の武器でもあるわけだ。エンジンに関しても、3 速4000rpm からスロットルを開けたときの反応は、2C0 モデルより明確な反応を示し、圧縮比アップによる恩恵は確実に体感でき、この辺りもバイクが軽く感じるのに貢献しているようだ。ただストリートではエンジンのポテンシャルを20%程度しか味わうことが出来ず、ショッピング街やオフィス街は数時間滞在しただけで、そそくさと立ち去ることにした。
☆やっぱこれだね
街中から郊外へ出かけて見た。街中の雑踏から抜け出すと生き生きしてくる。街中での使い勝手は悪くないが、お買い物して荷物を積んだりするのは得意としない。当たり前だが、スーパースポーツは走ってナンボなのは揺るぎ無い事実だろう。交通量の少ないワインディングでは、街中で感じていたクイックな反応が増強され、リズミカルな切り返しを容易にしてくれる。もちろんストリートなのでオーバースピードは厳禁だが、ついつい連続するツイスティな道を求めて郊外を走り込んでしまった。心地よいのはシフトダウン&アップを繰り返すワインディング。繋がりの良いミッション・ギアレシオを駆使し、アクセルを合わせる度に奏でる吸気サウンド、そして回り込んだタイトターンが気持ち良く決まり、加速していく時のエキゾーストサウンドは、R1よりも常に高回転域を使うR6だからこそ心地良い。R1 だと殆どが1 速か2速しか使えないからね・・・。
☆スーパースポーツの真骨頂
日常的な乗り味を堪能したら、もちろんサーキットで「解き放たれた野獣」パワーを確認しなきゃダメだね。まだ寒い時期でもあり、今回はタイヤウォーマーを持ち込んでテストした。空気圧は、冷感時に2.0hPa。標準より低めだが、タイヤウォーマーで暖めると標準値に近くなる。逆に標準値のまま走り始めると、タイヤ内の空気が温度上昇により膨張し、場合によっては高くなりすぎてタイヤの接地性が悪くなることがある。もちろんコースや気象条件にもよるので、適正値を探す必要があるのだが・・・。コースインして始めに感じたのは、リーンアングルに対してステアリング舵角が強く付く傾向だったこと。これは空気圧が大きく影響するので、フロントの空気圧を標準値まで上げた。すると幾らか良くなったが、もうちょっと足りない気もしたので、更に追加。最終的に温まった状態で2.8hPa だった。採用されているOEM タイヤの特性もあるが、ストリートでの軽快な回頭性はタイヤの恩恵が大きいようだ。そしてその特性は空気圧で変化しやすいので、R6 のハンドリングを楽しむならば、面倒がらずに定期的なチェックをするべきだね。そして好みを探る。重要事項のひとつだ。さて肝心のエンジン。YCC-I の効果は如何に?’07 YZF-R1 では、10500rpmで吸気系から奏でられるエンジン音が切り替わり、YCC-I が作動したことを体感できるが、R6 は?やや高めのギアでコーナーを立ち上がりスロットル全開♪高まる回転数に応じてパワーが盛り上がってくる・・・エンジン音も徐々に高揚し、タコメーターの針はトルクピークの10500rpm を過ぎて生き生きとしてきたが、R1 のようにYCC-I が切り替わる急激な音の変化は感じられない。ただし、明らかに中速回転域での加速力は高まっており、ストリートで感じていたスロットルの反応は、サーキットでの力強さとして体感できる。これこそがYCC-I の最大の特徴なのだが・・・はて?いつ切り替わっている?今度はキチンとコーナーに合わせたギアで走ってみる。ひときわ高いエキゾーストサウンドは「その気」を誘う。そしてタイヤのグリップが安定してきたところでワイドオープン。甲高くもショートエキゾースト独特の篭るようなサウンドがピークパワー付近に達したときだった! タコメーターの針が14000rpm 付近に差し掛かったとき、更に暴力的なサウンドに切り替わり一気にレブリミットに達してしまった。「うへっ・・・こいつこんなに回るの。」中速域からピークへ向けて二次曲線的な盛り上がりを見せるのはR6 の特徴。しかも慣れてくれば先に触れたクイックなハンドリングの効果で、サーキットならば使い切れそうな気にもなる。これが600 クラスであるメリットだろう。R1 じゃ使いこなせる人は限られるからね。しかし切り替わりがピークパワー付近というのには驚いた。本当にサーキットじゃないと入れない領域だ・・・
☆そういうことか !
レーシングエンジンでも求められるのは加速力。限られた距離の中で効率良く加速させることが要求されるが、これはエンジンのピークパワーではない。エンジン回転が上昇していく過程で、どれだけのトルクを発揮できているか?が、実際の加速力となる。これで分かったと思うが、加速性能はピークパワーだけじゃなく中速域でのトルクが重要であるということ。’08 YZF-R6 が求めたのは、高回転型ハイパワーを求めたときに不足する中速域でのトルクをYCC-I で補い、全域でのパワー特性を最大限引き出しすことに成功しているということなのだ。
☆弱点を幾つか・・・
以前から思っていたが、こいつの場合苦手とする部分が幾つかある。市街地で体感したが、U ターンは困難を極める。これはプロライダーとして感じたので、ライディングに自信のない人は充分注意するように・・・理由はハンドルを左右どちらかに一杯切ってみると分かるが、手首の余裕が殆どなくなってしまい、コントロールが難しいのだ。郊外のワインディングなど、もっと狭い道路でU ターンする際には特に注意するべきだ。そしてもうひとつ、クラッチレバーの半クラッチ領域が少なく、唐突に繋がりやすい。これはサーキットでは逆に嬉しいのだが、低速で細かい操作を使用とするには向かない。この2点だけでもU ターンは難しいことが理解できるだろう。無理をする必要はない、また無理をして「ゴロン」といってしまうリスクを回避するには、素直に降りてターンさせるべきだろう。的確な状況判断でカッコよくターンすれば良いだけ。全然恥ずかしくないはずだから。最後にひとつ、決して足付き性は良くない。ストリートでの扱いやすいエンジン特性やハンドリングは加わってはいるものの、ここだけはこれはスタイル、そしてサーキットで最高のパフォーマンスを約束している代償だと思うしかない。弱点を知りつつ、こいつのポテンシャルを堪能してもらいたい。
FZ6-Fazer S2
☆ん?! やはり・・・
「どこかで見たことあるんだよな・・・」。ずっとそう思っていた。「ダヤン」だ。ダヤンとは「池田あきこ」さん著作の空想物語に登場する猫のキャラクターなのだが、つりあがった目が最大の特徴であり、見る角度で表情も変わる。こいつの顔に同じ印象を持ち、「そうそう !」と相づちを打つ人も多いだろう。いきなり話が逸れたが、ここ最近のスポーツバイクはツインヘッドライトが定番化し、色々なモデルが採用する中で個性を主張するにはインパクトのあるデザインが必要。こいつの「顔」といったら、猫化の動物好きには魅力的に映りゃしないだろうか?はっきり言って、私は気に入っている・・・。顔つながりで特徴なのは、こいつのヘッドライトのLowビームは片目しか点灯しない。ヤマハの600cc クラスには YZF-R6 というスーパースポーツモデルもあるが、奴も同じように片目しか点灯しない。もちろんHiビームの時には両方点灯するのだが、知らない人が親切に「バルブ切れてるよ !」と教えてくれ、日本も親切な人はまだまだ沢山いて捨てたもんじゃないな・・・と思いつつ、一連のシステムを説明したりする。またしても話が逸れたが、要するに600cc クラスのヤマハ・スポーツバイクシリーズのアイデンティティと言うことなのだろう。確かに対抗してくるバイクのライトが非対称に点灯していれば気になる⇒目立つ⇒ありゃなんだ?⇒ヤマハのバイクか♪ということだ。今回マイナーチェンジで登場した’08 モデルは、更なる質感アップを成し遂げていたのだが、これはカタログでは伝え切れていないと思った。細かいところはラインナップから「特徴」、「仕様・諸元」を見ていただくとして、ここでは日常的な使い方をして感じた内容を伝えたいと思う。
☆カタログ以上
私はどんなバイクに乗ってインプレッションする場合でも、極力想定してあるキャラクターに見合った使い方で乗る必要があると考えている。だが、メーカー試乗会などでは一般公道でのテストが困難か、または「近場をチョロっと」というのが普通で、これでは充分な評価は出来ないと考える。だからこそ1000km ! という自分なりの評価スタイルを持っているのだが、さすがにNEWモデルが一気に登場する場合、全車両1000km は困難を極める・・・。前書きはこのくらいにして本題に入ろう。要約すると、FZ6-Fazer S2 は価格に対する満足度が非常に高いものを持ち合わせていたといえる。それは私がストリートバイクに求める内容に見事に合致しているからでもあるが、それら全てが合格点を与えられるほど完成度が高かったからだ。また今回の試乗ではサーキット走行へ持ち込んでいない。それは’07 モデルで体験済みであり、スーパースポーツ直系のエンジンを備えていることから充分なポテンシャルであることは分かっているから。それよりも日常的なストリートからツーリングを経てワインディングへと、とにかくどんなシュチエーションにおいても、そして長時間のライディングにおいても疲れを感じさせない。そして不満を感じさせない。これがこいつの最高の美点だと改めて感じたのだった。
☆いくつか上げると
あまり抽象的なコメントばかりでは伝わらないので、いくつか納得した点を触れて見よう。まずはサスペンションなど乗り心地に関することだが、ボリュームのあるシート形状がもたらす疲労軽減効果は、実質3時間連続して走り回った長時間ライディングでも私のお尻は平気だった。これは私の尻が鉄で出来ていからではない。もちろん個人差があるので誰もが完璧かどうかは断言できないが、少なくとも私は平気だった。経験ある方も多いだろうが、日帰りツーリングの目的地付近でお尻が痛くなると、帰りは拷問?のような辛い思いをする。ちょっと左右にずらして見たり、ステップに立ち上がってみたり、結果として注意力が散漫になりやすい。ヨーロッパでは「今日はちょっとミラノまで」とか、「スイスの山岳まで」など高速道路が隣の国まで運んでくれることから距離を走る。必然的に疲れにくいバイクが求められるものなのだ。こういった日常を快適にしてくれるヨーロッパクオリティーを持つFZ6-Fazer S2 は、バイクに乗り始めたら止まらなくなる私にとって重要ポイントなのだ。そして乗り味を左右するサスペンション。何の変哲も無い、また今となっては珍しいくらい調整機構を殆ど持たない前後サスペンションなのだが、これまた良く出来ている。普通ならば乗っているうちに「もうちょっとプリロードを」とか、「減衰力をこうして」など好みに合わせたくなるのだが、それが無かったのだ。強いて不満を言えばスピードの低い領域(40km/h 以下)では少しゴツゴツがあったこと。これはもう少しアベレージが上がれば同じ凸凹でも全く気にならなかったのと、もう少し距離(1000km 程度)を走って馴染みが出てくれば改善方向だと思われる。とにかく前後サスペンションに関しては、バネレートや減衰力の設定が絶妙だといえる。またこの乗り味を支えているのがOEM(オリジナル エクイプメント マニファクチャリング)採用されているタイヤ。バイクの持つ乗り味を占める大半はタイヤの特性が影響しているのだが、これもベストマッチ。一番嬉しかったのは路面にある轍や、進行方向に平行している路面の継ぎ目をスムーズに吸収して
くれ、特に路肩にあるアスファルトの盛り上がりなど、バイクにとっては不安定になって恐怖を覚えるような場面でも、「ふらつき」が最小限に抑えられるので心強かった。これは体力に自信の無い女性にも歓迎されるポイントだ。
☆気になるところもあるが
普通全てがパーフェクトと言うのはあり得ないのだが、こいつの場合はそれをもリカバリーできる点もある。そのひとつ目はハンドルポジション。そもそもヨーロッパをマーケットの主としていることから、ライディングポジションは大柄。私も最初は「なんでこんなハンドル位置なんだろう」と思ったが、ステップに踏ん張り中腰(シートから数センチお尻を浮かせた)になって見て納得。答えは簡単 ! 私の背が想定している背丈に対して低いだけだった。これはバーハンドルの利点で、簡単に変更微調整することが出来る。私の場合は手前に大きく倒して見たのだが、これで大満足 ! それに合わせてクラッチとブレーキレバーの角度を調節したら完璧だった。しかし、クラッチに関しては今後の課題も残った。若干だがレバー比の関係で半クラッチの領域が少なく感じ、極低速でスピード調整するときにコントロール性が悪く感じた。もちろん慣れも必要なのだが、もう少し改善の余地はあるかな・・・。(必殺技もあるにはあるが・・・)今回の’08 モデルではABS(アンチ・ブレーキロック・システム)付きも投入されている。あえてブレーキターンしようと試みたが、当然ながら出来なかった。無理もない、ラフなブレーキ操作や、濡れた路面などでリアタイヤがロックしないのがABS なのだから・・・しかしその作動感はもうひとつ。ブレーキペダルへしっかりと跳ね返す力が帰ってくる。これに負けないよう、踏み続けることは重要だね。
現在のABS は効率的な制動補助装置という概念から代わり、特にバイクの場合はタイヤがロックして挙動が乱れ、ライダーが車両コントロールを失って転倒してしまわないように補助するものだと考える。4輪の場合でも現在は「ロックさせずに車両コントロールを維持させる装置」という考えもあり、その作動に当たっては日進月歩のシステムなのだ。
☆何処へでも
是非一度乗って見て欲しい。こいつの良さは体験して見ないと分からないだろう。何しろオールラウンダーでありながら全てにおいて合格点。スーパースポーツのように「ある条件でだけ真価を発揮する」タイプとは違うので、スペックだけでは語れない魅力があるのだ。日常のシチュエーション全てにおいて「Happiness」を提供してくれるこいつと何処へでも出かけてみな♪きっと充実したバイクライフをもたらせてくれるから。
XV1900CU (RAIDER)
☆メーカーが作ったチョッパー
チョッパーといえば、1969 年のアメリカ映画「イージーライダー」を思い浮かべるのは、ある程度世間を渡ってきた世代だろう。アウトロー的な生活と、馬に変わる自由な乗り物であるモーターサイクルを題材にし、当時世界中の若者から絶大な支持を受けた。改めて「チョッパー」って何だ?と思ったのだが、単語からすれば単純に「斧」や「切断機」みたいなものを意味するはず。そこから何で?モーターサイクルが?なのだが、よく考えて見ると、前記イージーライダーに登場しているバイクは、無茶苦茶な改造がしてあり、フレームのヘッドパイプを切断して角度を変え、長〜いフロントフォークで考えられないほどのキャスター角とトレール量を誇る?もはやバイクとはいえないくらいの乗り物へと化していたと思われる。そう、フレームを「チョン切る」ところから付けられたのではないか?と、想像して見た。まぁこの話はこのくらいで・・・。モーターサイクルにおいて、キャスターとトレールは重要な意味を持つ。特に重量のある機種では、適切な数値に収まっていないと普通に乗ることすら不可能だ。またハンドリングを左右するタイヤの外径も、大きければ当然安定志向でありながら、回転する質量が大きいので鈍感な反応になることは否めない。よくあるアメリカン系のモーターサイクルは、一般的に外乱に強く直進性に優れるが、そのぶんハンドルに掛かるエネルギーが大きく重く、自由度が少なくなる傾向になる。もちろんこれらをバランス良くまとめてあるのが現在市販されているアメリカンタイプのバイク達だ。それを更にワイルドなスタイルに仕立て、キャスターを大きく寝かせ前方にフロントタイヤを投げ出し、そして強力なエンジンを引っさげて登場してきたのが XV1900CU (CUSTOM) だ。「ど〜でぃ、俺のフロントタイヤ。イケテルだろっ?」っていうくらいマッチョな感じだ。
☆ヨーク角の恩恵
聞き慣れないが、今回XV1900CU のシャシーには「ヨーク角」を付けるという手法で、ハンドリングの適正化を行っている。これは先に触れた長いフロントフォークによる極端に寝ているキャスター角と関係がある。通常のディメンジョンでキャスターが極端に寝てくると、必然的にトレール量も増える。これのデメリットは、オートバイはバンクして旋回するものだが、その際に自然とステアリングに舵角が付く。このときにトレール量が大きすぎると極端に切れ込んでしまう特性となる。しかも度が過ぎると低速時におけるそのエネルギーたるや凄まじく、普通の人の力では支えきれなくなるほど。これはキャスターとトレールが持つステアリング特性の慣性モーメントによるもので、極度なチョッパースタイルはモーターサイクルとして不自然なハンドリングに陥ってしまう。「こいつ」はその不具合に対しヨーク角を用いてトレール量を補正し、シャシー全体構成を適正化して自然なハンドリングを実現している。話は難しかったが、要するに長いフロントフォークは普通のモーターサイクルの常識では非常に乗りにくくなるところ、各部を補正して自然なハンドリングを実現しているということだ。事実、直進性は「アメリカンならでは」でありながら、高速でのレーンチェンジなどに対する反応は軽く、思い通りの反応を示してくれるので楽しさすら感じる。
☆脳ある鷹は爪隠す
エンジンも強力だ。馬力こそ72.4kw (97PS)だがトルクが凄い!167.2N・m( 17kgf・m) もあるのだ。加速力はトルクが全てであり、最大出力ではない。このトルク数値が何を意味するか?だが、最大トルク値は排気量で概ね決まってくるもので、1000cc クラスだと10kgf・m〜11kgf・m 程度なのが今の主流。レーシングエンジンでもここから大幅なトルクアップは技術的にも困難(過給すれば別だが)なのだが、要するにモーターサイクル最高峰である motoGP マシンYZR-M1 よりも大きなトルクを発生しているということなのだ。また同じ形式のエンジンを搭載するXV1900 シリーズの中でも、このCU がトルク最高値をマークしていることから、私は乗る前からワクワクだった。大きなトルクは、競技用に排気量アップしたマシンに乗ると良く分かる。ライダーの意思に対するエンジンの反応は鋭くなり、爆発力が明らかに増大していることが体感できる。またXV1900 のように大きな排気量を持つエンジンではクランクが持つ回転エネルギーも大きくなるので、1回1回の爆発を右手でコントロールしているような感覚になり、暴れ馬を宥めながら乗りこなすような充実感が宿る。また右側に2本揃って出ているエキゾーストは若干後方「下」側へ向かっており、1 リットルのオイル缶サイズのピストンが「ドカンドカン」繰り出す排気圧力が、リズム良く地面を叩きつけているような迫力が乗り手に伝わってくる。間違っても排気圧力で推進力は得ていないと思うが・・・。17kgf・m というトルクが一体どんなものか? 高速道路へ繰り出し、5 速ギア80km/h でスロットルを全開にしてみたのだが、それは凄まじいエネルギーで加速を始め、ライダー込みで400kg 弱の車重を簡単に別世界へ連れ去った。まぁ普通はこんな乗り方はしないだろう。有り余るパワーを手なずけ、どんなときも余裕シャクシャクで往なしていく・・・そんな大人な乗り方をしたいものだ。
☆余裕だが油断は禁物
大柄なライディングポジションはある程度の体格を必要とするし、クラッチやブレーキレバーも大きな手を想定したサイズながら調整機構が無い。小柄な日本人には決してベストとはいえないかもしれないが、何故か走らせていると気持ちを楽にしてくれる。こいつの魅力は特別な能力を秘めていることを隠し持っているような気分にもさせるが・・・独特の鼓動感が日常的な「忙しなさ」から開放させてくれるのかもしれない。だが、ひとたびスロットルを捻れば強力なトルクが鋭い加速をもたらす。ワインディングなどでは決して気を抜いてはならない。というものライダー込みで400kg 近い重量が現実である。もしコーナーにオーバースピードで進入してしまったら減速することは容易くない。そして無理矢理ターンさせようと更に深いリーンアングルに持ち込もうとしても、簡単に接地するステップは軽快な旋回を許容しない。それから狭い路地や獣道?に迷い込まないこと。小回りが利かないのと充分な車重により押して戻るのは困難だ。しかもその道が坂道だったとしたら、バックで押して登るのはひとりでは不可能だ。まぁあたりまえだが・・・。とにかくワインディングでは焦らず常に気持ちにゆとりを持ってこいつと楽しんでもらいたい。本来は相当な暴れ馬・・・それら全てを知り、全て自分に手懐け済み。そんな付き合い方がこいつには似合っているじゃないかい?
’08 FJR1300AS
☆ただのABS と思うなかれ
ABS(アンチ ブレーキロック システム) は、4輪の世界では当たり前の安全装備として定着してきたが、モーターサイクル用においては開発が遅れていると言わざるを得ない。これには幾つかの要因があると考えられるが、4輪の場合でも、初期の頃は「どんな状況でも短い距離で停止できる」という理想的な制動をもたらせてくれる画期的なシステムとされていた。が、今は認識が違ってきており、効率的な停止に加え、「危険回避」という重責も加味されて開発が進められている。要するに安全性に関しては常に進化を続けているということだろう。モーターサイクル用に関しては、ブレーキシステムそのものが前後分別されたシステムとして構築されており、それらをそれぞれ制御するのか?また4輪のように足で操作するだけでなく、殆どが右手の指による繊細な操作であることなど、コントロールする上で求められる要求がシビアであることは容易に想像が付く。今回 ’08 FJR1300 シリーズに採用されている「ユニファイド・ブレーキシステム」は、減速時のABS 機構に加え安定した姿勢制御までも可能とする頼れるシステムだった。
☆ そうだとは知らずに
もともとブレーキコントロールに絶対の自信がある?私の場合、「ABS なんて・・・」という堅物な頑固者の考えだ。だが考えて見ると、私のブレーキングのテクニックは何度も転倒し、痛い思いをして得たテクニックであり、誰もが達成できるレベルではない。(ここでは自慢している訳ではないが・・・)話を戻そう。私は今回、この「ユニファイド・ブレーキシステム」の存在を知らずに試乗を開始した。ストリートからワインディング、そして快適なスピード域でのタンデムなど、こいつのテリトリー全般で走り回ったのだが、そのうち始めて走るワインディングでこのことは発覚した。その時はタンデムだったのだが、コーナーの後半で更に回りこむシチュエーションだったことから、コーナーへ倒しこんでからバンクしたままスピードコントロールを余儀なくされた。普通ならばフロントブレーキを使いたくなるのだが、フロントだけだとノーズダイブ(フロントフォークが縮み、リアが延びる)傾向になり車両姿勢が乱れるのと、パッセンジャーが少し怖い思いをすることもある。これを瞬時に判断し、リアブレーキでのスピードコントロールを試みたのだが、これがエクセレント!! 何と足で踏んだはずのリアブレーキ・システムは、適度な配分でフロントブレーキも連動し、不用意なノーズダイブを感じさせず、あたかも前後が路面に張り付くような感覚とともに適切なスピードへと減速を完了した。はっきり言って私のテクニック以上だった。
☆試すべきだ
この今までにない感覚は、モーターサイクルのコントロールにおいて画期的なシステムだと感じた。何しろこのシステムを体感してしまったら、普段のストップ・アンド・ゴーでもリアブレーキだけで充分と思えるからで、その際も当然ながらノーズダイブは抑えられ、安定した車両姿勢による減速は疲労軽減に絶大な効果を感じる。もちろんタンデムであればその効果の程は二乗に比例するだろう。もちろんこのシステムは本来のABS があってこそ成り立っているのは間違いないが、あくまでも過信してはならない。モーターサイクルは人間の感覚に忠実に反応する乗り物であり、そのバランスはライダーに委ねられている事は肝に銘じておくこと。ただしこいつの場合、ライダーに信頼され、ライディングにおけるライダーの負担を最小限に抑える優れものを備えているということだ。’08 FJR1300 AS の場合、一昨年から導入されているYCC-S(ヤマハ チップドコントロール シフト)によりクラッチ操作が不要。これにより加速時も楽チンで楽しく、今回の「ユニファイド ・ブレーキシステム」により減速時は負担を軽減してくれる事になり、ツアラーとしての存在感を更に魅力的なものにしてくれたと感じた。そして何より試してみるべきだ!プロライダーより優れたブレーキング・テクニックを是非試乗会で体験して欲しい。特にタンデムで。間違いなく感動するから!